私が無糖炭酸水で学んだ「ほどほど」の大切さ

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※登場人物は全て仮名です。

冷蔵庫を開けると、そこには24本入りの炭酸水が整然と並んでいた。レモン、グレープフルーツ、ライム。色とりどりのラベルが私を誘惑する。

「これで今月も完璧ね」

38歳、独身、会社員の私が炭酸水に目覚めたのは、半年前のことだった。きっかけは職場の後輩、25歳のミホちゃんの一言。

「先輩、最近ちょっと…あの、お腹が…」

彼女の視線が私のウエスト周りを微妙に避けながら、でも確実に指摘していた。鏡を見れば、確かにスカートのボタンがきつい。いや、正直に言えば3ヶ月前から怪しかった。

その日の帰り道、私はドラッグストアで運命の出会いを果たす。

無糖炭酸水との出会い

「無糖炭酸水、カロリーゼロ」

なんて美しい言葉だろう。甘い炭酸飲料は罪悪感があるけれど、これなら大丈夫。しかもフレーバー付きなら飽きない。私はすぐさま6本購入し、その夜、レモンフレーバーを一気に3本空けた。

爽快感が喉を駆け抜ける。シュワシュワとした刺激が心地いい。

「これよ、これ!求めていたのは!」

次の日、私は通販サイトで24本入りのケースを3箱注文した。

まとめ買いこそが正義

届いた段ボールを見て、配達員さんが少し驚いた顔をしたのは気のせいだろうか。

「重量物ですね」

「ええ、健康のためですから」

私は胸を張って答えた。72本の炭酸水。これで1ヶ月は戦える。いや、戦えるどころか、毎日が爽快になる。

朝起きて1本。通勤電車で1本。会社に着いて1本。午前中に1本。昼食時に1本。午後の眠気覚ましに1本。帰宅後に2本。

計算すると1日8本。1本500ミリリットルだから4リットル。ちょっと多い気もするが、水分補給は大事だし、何より無糖だから問題ない。そう自分に言い聞かせた。

「先輩、最近すごい炭酸水飲んでますよね」

ミホちゃんが心配そうに言う。

「だって健康的じゃない。カロリーゼロよ?」

「でも、トイレの回数とか…」

「代謝が良くなってる証拠よ!」

そう、私は完璧だった。完璧すぎた。

プレゼン当日の悲劇

2週間後、大事な取引先へのプレゼンの日。朝から気合を入れて、グレープフルーツフレーバーを2本飲んだ。酸味が効いていて、目が覚める。会社に着いてレモンを1本。午前中にライムを1本。

「今日は勝負の日だから」

そう言って、昼食後にまたグレープフルーツを2本空けた。

午後2時、会議室。

役員、取引先の部長、課長、そして私。緊張で喉が渇き、持参した炭酸水をまた1本開けた。プレゼンが始まる。

ところで、皆さんは好きな食べ物ってありますか?私は断然ラーメンなんです。特に背脂たっぷりの豚骨ラーメン。

あの濃厚なスープに細麺が絡んで…って、いやいや、今はダイエット中だから炭酸水一筋なんですけどね。でも時々無性に食べたくなって、先週も夜中に我慢できなくて、結局コンビニに走って…あ、ごめんなさい、何の話でしたっけ?

そう、プレゼンの話。

スライド3枚目に差し掛かったとき、それは起こった。

炭酸危機一髪事件勃発

グルルル…ゴロゴロゴロ…

お腹の中で、何かが荒れ狂っている。いや、暴れている。まるで洗濯機が高速回転しているような感覚。

「そ、それでは次のスライドを…」

声が震える。額に冷や汗が浮かぶ。取引先の部長の顔が遠のく。

グルルルル…

まただ。お腹がさらに主張してくる。しかも今度は音も大きい。会議室中に響いているのではないか。

「弊社の提案は…っ」

言葉が続かない。胃が痛い。いや、腸も痛い。全体的に内臓が悲鳴を上げている気がする。

「大丈夫ですか?」

取引先の課長が心配そうに聞く。

「は、はい、ちょっと…失礼します」

私は資料を抱えたまま、会議室を飛び出した。廊下を全力疾走。トイレのドアを開ける音さえ、もどかしい。

あの30分間については、思い出したくもない。

真実を知った夜

その日のプレゼンは当然ながら散々だった。戻った会議室で、上司が苦笑いしながらフォローしてくれたが、取引先の視線は冷たかった。

「体調管理も仕事のうちだぞ」

部長に言われた言葉が胸に刺さる。

帰宅後、私はスマホで検索した。

「炭酸水 飲みすぎ 症状」

画面に表示された記事を読んで、私は固まった。

炭酸水は健康的な飲み物ですが、飲みすぎには注意が必要です。炭酸による刺激で胃腸に負担がかかり、腹痛や下痢を引き起こすことがあります。1日の適量は1.2リットル程度を目安にしましょう、と書いてある。

500ミリリットル×8本=4リットル

私は目安の約4倍も飲んでいた。無糖だから、カロリーゼロだから、いくら飲んでも大丈夫だと思い込んでいた。

冷蔵庫を開ける。そこには今日も炭酸水が並んでいる。まだ50本以上残っている。

「ごめんね」

誰に謝っているのか分からないが、私は炭酸水に向かって頭を下げた。

炭酸水との新しい付き合い方

それから3ヶ月。

今、私は炭酸水と適切な距離感で付き合っている。

朝食前に強炭酸のレモンを1本。炭酸の刺激で満腹感が得られて、朝食の量が自然と減った。昼休みには微炭酸のグレープフルーツを1本。午後のリフレッシュタイムにライムを1本。

1日3本、合計1.5リットル。少し多めだけど、様子を見ながら調整している。

「先輩、最近調子良さそうですね」

ミホちゃんが笑顔で言う。

「ええ、ほどほどが一番ってことを学んだのよ」

体重は2キロ減った。お腹周りも少しすっきりした。何より、あの日以来、プレゼン中に冷や汗をかくことはなくなった。

冷蔵庫を開ける。今は12本だけ常備。レモン、グレープフルーツ、ライム、それぞれ4本ずつ。ちょうどいい量。

シュワシュワとした音が心地いい。適度な刺激が喉を通り抜ける。

「いい関係って、こういうことよね」

私はグラスに注いだ炭酸水を飲みながら、窓の外を眺めた。夕暮れの空が、今日もきれいだ。

健康的な生活は、無理をしないこと。ほどほどを知ること。そして、自分の体の声に耳を傾けること。

38歳の私が、炭酸水から学んだ大切なこと。それは人生にも通じる教訓だった。

 

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